Alpaca技術ブログ

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日米の新しい証券会社設立例から読み解くFintechトレンド

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こんにちは。インターンの加藤です。突然ですが、金融業界というと規制が多く、参入することが難しいイメージがありますよね。しかしここ数年、Fintechのスタートアップを中心に、日本国内外の大手金融機関や事業会社の関連会社としてではなく、新たに証券業を営む会社が生まれてきています。今回はそもそもどうやったら証券会社を作ることができるのか、日米の比較を中心に、そこから見えてくるFintechのトレンドに迫りたいと思います。

目次

  1. どうやって証券会社を作る?
  2. 日本の場合
  3. アメリカの場合
  4. まとめ

どうやって証券会社を作る?

「証券会社を作る」と言うと、ものすごくハードルが高く、大手の企業でなければ参入するのは難しいのでは、と言うイメージがありますよね。しかしここ数年、”証券会社”として業務を行うFintechのスタートアップが日米で誕生しています。日本では、ロボ・アドバイザー「THEO」を提供しているお金のデザイン、スマホ証券のOne Tap BUYなど、アメリカでは以前取り上げた、取引手数料が無料というスマホ証券のRobinhood、ロボ・アドバイザーを提供しているBettermentなどです。

日米のFintechスタートアップ

日本でもアメリカでも証券業を営むにはライセンスの取得が必要です。そこで、それぞれのFintechスタートアップが取得しているライセンスをまとめてみました。

まずは日本からみていきましょう。

f:id:alpacablog:20161212171118p:plain*上表を2016年12月12日に修正しております。株式会社お金のデザインは有価証券関連業も取得しておりますが、これまで掲載していた表においては有価証券関連業を取得していないというふうに表記されておりました。これは弊社の間違いでして、株式会社お金のデザインは、第1種、投資助言・代理業、投資運用業、有価証券関連業を取得しております。これによって生じた誤解やご迷惑につきまして、深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。尚、本件における詳細情報につきましては "金融商品取引業者登録一覧" をご参照ください。

お金のデザイン、One Tap BUY、ウェルスナビは第1種金融取引業のライセンスを取得していますが、その他のライセンスは全て同じというわけではないのですね。

*株式会社お金のデザインについて、有価証券関連業にチェックが入っておりませんでしたが

アメリカの場合はどうでしょうか*1

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Broker Dealer (BD)とInvestment Advisor (IA)のどちらか、または両方のライセンスを取得しているようです。また、日本の3件と比較すると、アメリカの方が証券業関連のFintechスタートアップの数がそもそも多いこと*2、Motifのような日本ではまだあまり馴染みのない、自分で作成したテーマに対して投資できる形態の証券会社が作られていることも特徴的です。(ちなみにこの記事によると、日本でもFolioがこのコンセプトに近いサービスを立ち上げようとしていますが、まだ本日の時点では正式にスタートしていないようです)

さらに、新しい証券会社をその技術に着目して大手の証券会社が買収する事例もあり、日本と比較すると金融にも産業のダイナミクスがあります。これは過去にこの記事でも紹介した株式投資が日本に比べて非常に活発な米国特有のマーケット特性も関係していると考えられます。

日本の場合

ここからは、日本とアメリカ、それぞれについてもう少し詳しくみていきましょう。

証券会社とは

まず、今日時点の日本において、「証券会社」という言葉に正確な定義はないようです。今日時点の、というのは、2007年に法改正が行われる前、従来の証券取引法で規制の対象とされた業務を「証券業」と呼び、そうした業務を担う業者を「証券会社」と呼んでいたからです。一方、現在の金融商品取引法では、規制の対象となる業務を「金融商品取引業」、そうした業務を行う業者を「金融商品取引業者」と呼びます。その金融商品取引業は、業務の内容によって、第1種、第2種、などに分類され、この資料では「第一種金融商品取引業を営む者とは、従来の『証券会社』に該当する者である ということができるだろう。」としています*3

証券会社の作り方

では、どうやったら証券会社を作ることができるのでしょうか。(ここからは、第1種金融商品取引業を営む業者を「証券会社」とします。)そのためには、内閣総理大臣の登録を受ける必要があります*4。そして内閣総理大臣は、拒絶理由に該当する事実がない限り、原則として申請者の登録を認めなければいけません。

拒絶理由には、すべての業務に共通するものと、個別に設けられている事項があります。共通事項には「登録申請書・添付書類等に虚偽記載などがある」、第1種には「株式会社、又は外国の法令に準拠して設立された同種の法人ではない」「自己資本比率が120%を下回る」などがあります。

拒絶理由がなければ登録されるとはいえ、簡単に登録できるものなら、もっとたくさんの証券会社が生まれているはずですよね。登録が認められるには、事業の適切性や財務の健全性などを事前に厳しく評価・検証されます。

日本における金融規制緩和の動き

やはり金融業界に参入することは難しいのでしょうか。しかし、ここ数年、そんな金融業界にも動きがあるようです。

2007年の法改正の後、新たに第1種金融商品取引業に登録された企業は関東財務局の中では20社ほどしかなく、さらにそのほとんどは日本国内外の大手金融機関や事業会社の関連会社です*5。そんな中、2014年9月、ロボ・アドバイザー「THEO」を提供しているお金のデザインが登録され、去年の年末にはOne Tap BUY、ウェルスナビが登録されました。Fintechスタートアップの勢いを感じますよね。さらに、今年5月、銀行法や資金決済法の改正案が国会で可決されました。いずれもFintechをにらんだ改正となっています。

金融規制について、『Fintechの法律』(増島雅和・堀天子・石川貴教・白根央・飯島隆博 著)の中で、金融規制を変えるのは容易ではないとしつつも、金融規制のルールが変化していくと考えるのが自然だ、と言っています。

つまり金融規制は、消費者保護、国内の産業インフラの整備(資金決済システム、証券決済システム、リスク移転システムを含む広い意味での金融システムの安定)のほかに、国際的な金融安定という三重の意味で金融業をコントロールすることになります。このため、金融分野では規制を変化させるほどの大きなイノベーションは起こらない、と受け取られがちでした。 (中略) 今回のFintechの波は、既存の金融規制の価値体系に対する新たなアプローチを提示しています。こうした流れに適合する形で、金融規制のルールが変化していくと考えるのが自然でしょう。すでにそうした動きの萌芽が見えつつあります*6

日本国内でも規制のルールが少しずつですが変化している中で、新たなビジネスモデルや技術を用いたFintechサービスが今後も次々とあらわれそうですね。なんとなく重いイメージがあった”証券会社”の業界に、私たちでも馴染みやすいイメージやアプローチのサービスがたくさん出てくることを楽しみにしています。

アメリカの場合

続いて、アメリカの場合についてみていきましょう。

先ほどのBroker Dealer (BD)とInvestment Advisor (IA)を比べると、必要事項は共通するものもあれば、異なるものもあるようです。

例えば、IA取得に登録が必要とされる組織は、SEC(Securities and Exchange Commission:米国証券取引委員会)、FINRA(Financial Industry Regulatory Authority)の二つですが、BDの場合、上記の二つに加え、 SIPC(Securities Investor Protection Corporation)への登録が必要です。さらに、先物取引を扱う場合は、CFTC(Commodity Futures Trading Commission:米商品先物取引委員会)への登録が必要な場合もあるようです*7

では、BD、IA共に登録が必要なFINRAのメンバーになるには、どうすればいいのでしょうか?この記事では、FINRA Rule 1010によると、以下を含む書類を提出しなければならないとしています*8

  • Form BD(Broker Dealer登録のための書類)
  • A FINRA-approved fingerprint card(特定の指紋カード)
  • A detailed business plan(詳細な事業計画書)
  • Documentation of regulatory, civil or criminal actions(規制、民事、刑事訴訟に関する書類)
  • A description of the prospective member's financial and supervisory controls(監査役メンバーの経歴)
  • A copy of final or proposed contracts with financial intermediaries(金融仲介業者との契約書のコピー)
  • And Much More... For the full list, please refer to FINRA Rule 1010 for more information.(その他の必要書類についてはFINRA RULE 1010を参照されたし)

日米を比較して

先ほどの『Fintechの法律』の中で、日本とアメリカを比較して、こんなことが言われています。

米国が採用しているのは、Fintechスタートアップに多額の投資資金を付けて、既存の金融事業者と連携しつつ、旧来の金融サービスをディスラプト(破壊)していくというモデルです。規制当局との連携には弱い面があります。日本が見習うべきは英国のモデルでしょう。英国は、シティ(ロンドンの金融)に厚い金融のコミュニティーを持ち、規制当局、既存金融機関、Fintechスタートアップが、金融ビジネスにおける英国の主導的地位を維持強化するという共通目標に向かって協調する姿勢を明確に打ち出しています。日本も首都圏エリアを中心に、金融庁や既存金融機関が集積しており、金融の中心地である大手町にインキュベーション施設も整いつつあります。協調のためのインフラは整備されたといえます。金融庁との密接なコニュニケーションを通じて、協調体制を作ることは十分可能です*9

このように、Fintech→シリコンバレー→アメリカと考え、進むべき方向としてアメリカのモデルを参考にすることが必ずしも正解ではなさそうです。

その代わりとして、ここでは英国モデルが推奨されていますが、この本の出版後、Brexitが起こりました。イギリスのFintechスタートアップを取り巻く環境は、今後変化していくと言えるでしょう。そしてその変化はEU諸国を通じて、Alpacaにも届いています。次回以降で、このあたりの話にも迫りたいと思います。

まとめ

今回は証券会社の設立方法についてレポートしました。金融規制はFintechスタートアップにとっては大きなハードルであるようで、以前サンフランシスコで開催されたFintechのイベントでも話題になりました。その中で、500 StartupsのSheel氏は、「Uberが無許可でタクシービジネスを始めて大きくなっていったような、ある意味無茶なやり方はFintechでは命取りになる可能性がある。例えば今後一生証券を触れなくなるといったようなリスクだ。そういうことにならないように、慎重に進めなければならないのがFintechだ」と述べていました。

また、スタートアップ単体での打破が難しい規制や金融業界の事業化の部分を、スタートアップと大手金融機関がタッグを組んで行う取り組みも増えています。Alpacaが参加するMUFGアクセラレーターもその取組の一環で、Alpacaも事業化にむけて素晴らしい支援を受けており、金融機関の本気度が伝わってきます。

今回でまとめましたように、日本に限らず海外各諸国の金融規制は複雑です。個人の資産を扱う証券業務、投資助言業務、投資運用業務については、個人の資産を守るためにも、各国が様々なルールを作っています。Fintechの波において新たな技術やビジネスモデルを採用したサービスがうまれるなかで、これまでのルールが必ずしもカバーできない場合も今後さらに出てくると思います。既存のルールを調査して理解した上で、事業によって必要なライセンスを見極め、規制とうまく付き合いつつ、今後も画期的なFintechスタートアップが出てきてほしいなと思います。

*1: 米Fintechスタートアップ一覧における各企業の詳細については、各企業のウェブサイトをご参照ください。 Robinhood (https://www.robinhood.com/) Motif (https://www.motifinvesting.com/) Betterment (https://www.betterment.com/) Wealthfront (https://www.wealthfront.com/) Covestor (http://covestor.com/) TradeKing (https://www.tradeking.com/) Zecco (https://www.zecco.com/) Personal Capital (https://www.personalcapital.com/) FutureAdvisor (https://www.futureadvisor.com/) SigFig (https://www.sigfig.com/)

*2:日本のFintechスタートアップについては2007年の法改正以降を調査対象としたため、米Fintechスタートアップについての表では2006年以前に設立された会社はグレーで表記をしています。

*3:大和総研 横山 淳「金融商品取引業とは?」(『大和総研 金融商品取引法シリーズ-29 』2006 年 08 月 18 日 4ページ参照)(http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/securities/06081801securities.pdf

*4:大和総研 横山 淳「金融商品取引業の参入規制の細則案」(『大和総研 金融商品取引法シリーズ-60 』2007年06月27 日 2ページ参照)(http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/securities/07062701securities.pdf

*5:金融庁『金融商品取引業者登録一覧』平成28年6月30日現在( http://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kinyushohin.pdf

*6: 増島雅和・堀天子・石川貴教・白根央・飯島隆博 著『Fintechの法律』(日経BP社、2016年)

*7: “FUTURES COMMISSION MERCHANTS (FCMS) & INTRODUCING BROKERS (IBS)” (http://www.cftc.gov/IndustryOversight/Intermediaries/FCMs/fcmib)

*8:“According to FINRA Rule 1010, some items that must be submitted include:”(http://www.investopedia.com/professionals/faqs/general/210105.asp)

*9:増島雅和・堀天子・石川貴教・白根央・飯島隆博 著『Fintechの法律』(日経BP社、2016年)

「バズワードに惑わされず、スタートアップしろ」 - Y Combinator、500 Startups、Stripeが集ったサンフランシスコのフィンテックミートアップ レポート

こんにちは。インターンの加藤です。 先日サンフランシスコで開催された、Empire Startupによるフィンテックのmeetupに参加してきました。

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『フィンテックのスタートアップに対して、アクセラレーターはどのような役割を果たすことができるのか』というテーマで、Y CombinatorのAaron Harris氏(写真左)、500 StartupsのSheel Mohnot氏(写真左から2番目)、モデレーターとしてStripeのChristina Cordova氏(写真右から2番目)が登壇しました。

登壇者のAaron氏とSheel氏は共にアクセラレーターのパートナーを務めており、さらにSheel氏はフィンテック領域で2つの会社を設立し売却したという経歴を持っています。

多くのスタートアップにとって興味深いテーマ、魅力的な登壇者であったようで、201人もの参加者が訪れていました。

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テーマとしては、それぞれのフィンテックスタートアップへの資金調達の経験についての話や、大手金融機関に対してどういうアプローチをするべきか、どのような人たちと一緒に進めていく必要があるのか、低い手数料が求められる中でどのように生き残っていくべきかなどが議論されました。

特に印象に残った内容は以下の3点です。

大手銀行と仕事ができるようになるまで18ヶ月はかかる

Fintechはスタートアップとしてのチャレンジもさることながら、金融業界特有のチャレンジに直面しています。Aaron氏によれば、「大手銀行と話し始めてから、実際にビジネスになるまで最低でも18ヶ月はかかる」のが事実ということで、さらに規制を乗り越えてライセンスを取得するなど、時間と体力が必要になってくるのが特徴だと述べました。その上で、「賢いFintechの起業家はその必要な時間を乗り越えるために様々な知恵を振り絞る、それは規制を破るということではなくて、例えばすでにライセンスを得ている企業の傘の下でビジネスを始めたりということだ」と答えました。Sheel氏も同意したのは、「Uberが無許可でタクシービジネスを始めて大きくなっていったような、ある意味無茶なやり方はFintechでは命取りになる可能性がある。例えば今後一生証券を触れなくなるといったようなリスクだ。そういうことにならないように、慎重に進めなければならないのがFintechだ」と述べました。

レンディングサービスが伸びたのはリーマン・ショックのおかげ

Fintechの特徴の一つとして、既存プレイヤーの巨大さというのがあげられるとAaron氏は語りました。「Google以前にはもちろん検索サービスがあったけれども、数百億ドルというマーケットがあったわけではなかった。Facebook以前にソーシャルメディアがあったといえばあったが、全くカネになっていなかった。Fintechのスタートアップが直面しないといけないのは、既存の銀行やクレジットカード会社という巨大なマーケットのプレイヤーだ。彼らをディスラプトしていくのは並大抵の容易さではない」。Fintechと一言に言ってもブロックチェーン、PFM、ペイメント、セキュリティ、アセットマネージメントと色々あるわけですが、その中でもLending Clubをはじめとするレンディングサービスでここまでスタートアップが進出したのは、「2008年のリーマンショックがあったから」だと言います。つまり、リーマンショックで大手金融機関が一気に貸し渋ったタイミングがあって、そのタイミングでスタートアップにチャンスが生まれて一気に広まった。そういう出来事でもない限り、「普通は入っていくのが難しい領域」という事実を起業家も投資家もよく認識するべきだと述べました。

ミレニアル:バズワードに惑わされず、スタートアップしろ

Fintechを説明するキーワードの一つとして、ミレニアル世代のことも話題に上がりました。Sheel氏からミレニアルについて聞かれたAaron氏は、「ミレニアルってなんだ、定義でもあるのか」と敢えて知らん顔。その背景には、「80年以降の生まれという恣意的な切り方をして弄ぶのは構わないが、上の層はブラウザに慣れ親しんだ世代、下はモバイルネイティブ。そのぐらいの違いは今の30代と40代にもあるわけで、ミレニアルなんて言葉に踊らされてる暇はスタートアップにはないはず。そんなことより、最終的にはコード書いてユーザの話聞け、Fintechと言えどスタートアップには違いがない、そういう風にYCでは言っている」と、非常に単純な真実を語っていました。

実際にフィンテックスタートアップへの資金調達の経験が豊富なお二人だからこそ、説得力のある内容でとても勉強になりました。今後もフィンテックに関する様々なmeetupに参加し、レポートをしていきたいと思います。

投資も「自分らしく」、 話題のロボ・アドバイザーとは真逆を行く「DIYトレーディング」のすすめ

こんにちは。インターンの加藤です。 今回は、アメリカで浸透しつつあり、Alpacaも注目している”DIYトレーディング”という考え方をご紹介したいと思います。

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目次

  1. DIYという考え方
  2. DIYトレーディングとは
  3. 似て非なるもの!?ロボ・アドバイザー
  4. まとめ

DIYという考え方

”DIY”という言葉、みなさんも一度は耳にしたことがあると思います。”Do-It-Yourself” の略で、「自分でやろう」という意味です。プロに任せず、自分自身で何かを作ったり、修繕したりすることを指します。元々は、第二次世界大戦後のロンドン市街地復興の合言葉として使われていましたが、現在は主に家具やインテリアを自分好みにカスタマイズするという意味で使われています。

DIYトレーディングとは

そんなDIYという考え方が、株式投資の世界にも広がってきています。”DIY Investing/Trading”, ”Self-directed Investing/Trading”という言葉を度々英文記事で見かけます。

これは文字通り、DIY(Do-It-Yourself)で、ロボットや他人に任せ切るのではなく、自分の意思と判断に基づいて取引を行うという意味で、私たちアルパカではこれを日本語で「DIYトレーディング」と呼んでいます。

なぜ、今、DIYトレーディングなのか

ではどうして、DIYトレーディングという考え方が注目されるようになってきたのでしょうか。まず大きな要因の一つとして、テクノロジーの発展が挙げられます。

この記事ではDIYトレーディングに役立つツールが以前よりも充実していると言っています*1

全てのオンライン証券会社はチャートをずらっと並べ、相場、レポートや教材を提供している。投資は簡単だ、これらのツールであなたはもっと良い選択ができる、と一概には言えませんが、これを読んでいるあなたたちのうちの何人かはたぶん素晴らしい結果を得ることができるでしょう。そして、あえて言ってしまいますが、何人かは良い結果は得られないでしょう。あなた自身で、挑戦し、学び、自分の価値を伸ばしてください!*2

テクノロジーの発展によって便利なサービスが次々と登場し、やる気さえあれば、DIYトレーディングを始められる環境になってきているということですよね。Alpacaでヘッジファンドや投資銀行の人と話していても、昔と比べてシークレットソースのようなものはなくなりつつあり、個人投資家も十分な情報にアクセスできる環境が整いつつあるということをよく聞きます。

そして、このようなオンラインのツールに抵抗が少なく、小さい頃からインターネットに触れ合ってきたいわゆるデジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代は、実は今、アメリカで最大の人口層です。少子高齢化の進む日本と比べるとイメージしづらいかもしれませんが、アメリカでは団塊の世代よりもミレニアル世代の方が人口が多く、アメリカの総人口のおよそ4分の1を占めています*3

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現在最も人口が多く、上のグラフからもわかるように今後もその規模を維持することが予測できるのですから、昨今のトレーディング事情に大きな影響を与えていることも、多くの金融機関がこの世代にアプローチしていることも納得がいきます。

この記事によると、彼らはすでに退職後のプランについても、従来の方法にはこだわっていないと言います*4

多くのミレニアル世代は401KやIRAのような、従来の年金システムにはこだわっておらず、その代わりにDIYの証券口座やオンラインの資産運用会社に移行しつつある。 例えば、InvestorPlace(米国株のニュースサイト)をよく見ている、ミレニアル世代の若い投資家Alyssa Ourslerはシンプルなオンラインの証券口座に登録をした。とても簡単だ。その証券口座は小さな最小限の投資額しか求めていないし、アップ・フロント・フィーもない。それはとてもDIYだ。*5

また、以前Robinhoodの回でも触れましたが、ミレニアル世代はSNSで友達にシェアしたくなるような物語性を投資にも求める傾向があります。さらに、このレポート*6では、ミレニアル世代は投資の際に、社会や環境への影響を重視すると言っています。その流れの中で、社会的インパクト投資(Impact Investing)と呼ばれる新しい投資形態が拡がりつつある、としています。インパクト投資とは、社会的課題の解決・改善と投資収益を同時に追求するというものです。

これは私の考えですが、アメリカではFacebookのようなまず若者に受け入れられた企業が、そのまま大きくなっていったストーリーがたくさんあります。このようなストーリーが身近にたくさんある環境では、自分にとっての物語性を感じる会社に長い目で投資してみたいと思うのは、日本よりも自然な感情なのではないかと感じています。

このような流れからも、投資によって単にお金を増やそうというのではなく、お金をどう増やし、管理していくのかという”哲学”が今まで以上に重要になってきていることがわかります。そしてDIYトレーディングでは、そのような自身の”お金の哲学”を表現することができるのです。

DIYトレーディングの魅力

テクノロジーの発展によって、DIYトレーディングをする環境は以前と比べ格段に整ってきていると言えますが、ではその魅力は何なのでしょうか。この記事では、”自分のことは自分が一番よくわかっていることだ”と言っています*7

あなたが最も有利な点は、あなたが一番あなた自身のことをよくわかっているということです。ということは、あなたはより正確にあなたの投資戦略を立てられるのです。あなたはまた、プロのアドバイザーが直面する短期的なプレッシャーに直面することはありません。彼らは長期的な視点で捉えているにも関わらず、職を失うかもしれないという可能性から短期的に成果を上げるために、最近の実績や失敗を元に判断することが多くなってしまいます。あなたは、そんなことを気にせずに、長期的な見通しを立てることができます。また、ウォールストリートには集団心理が存在します。90年代後半のテックバブルの時や2007年のサブプライムローン危機の時のように、それが悪い方向に向かっている時でさえ、人々がどっと押し寄せている時に、その流れに逆らうということはとても難しいです。あなたは集団の一人ではなく、その流れに反してよりいいポジションを取ることができるのです。*8

また、DIYに関しては、「人は自分で手間をかけることがクオリティーの向上に繋がると信じるものだ」という興味深い現象があります。ハーバード大学の経済学者マイケル・ノートン氏が提唱し、大手家具メーカーのイケアにちなみ、「イケア効果」と呼ばれています。この実験では、プロが組み立てた家具と、自分で組み立てた家具では、自分で組み立てた家具の方に高値をつけたという結果が出たのです*9

これは家具の組み立てに限らず、DIYトレーディングにも当てはまることでしょう。ファイナンシャルプランナーやロボ・アドバイザーによって与えられたポートフォリオではなく、自分で勉強をして努力をして作り上げていくポートフォリオに愛着を感じる、ということです。

さらに、いくら手数料が安くなってきているとは言え、ファイナンシャルプランナーを雇ったり、ロボ・アドバイザーを使うにはお金がかかります。結局、DIYトレーディングが一番コストがかかりません。

以前このブログで取り上げたRobinhoodは”手数料が無料”という画期的なトレーディングアプリで、若い世代を中心に普及しています。RobinhoodはまさにDIYトレーディングのためのアプリといえ、今後、このようなコストの面でもDIYトレーディングをより快適にすることができるサービスが生まれてくると考えられます。

似て非なるもの!?ロボ・アドバイザー

以前Robinhoodの回でも触れましたが、ロボ・アドバイザーというオンラインの資産運用サービスがこの頃アメリカでは普及しつつあります。一定のアルゴリズムに基づいて運用やリバランスを行うというもので、日本でもTheoなどのサービスが開始されていますね。

従来の対面型のファインシャルプランナーによるサービスと比較され、DIYトレーディングに含まれるものとして取り上げられることもあるのですが、”投資の判断を任せる存在”と捉えると、ロボ・アドバイザーはDIYとは真逆の考え方であることがわかります。

勢いはあるのかないのか

ここ数年、多くの企業がロボ・アドバイザーに進出しています。大手オンライン証券会社のCharles Schwab Corpやスタートアップの Betterment、Wealthfrontに加え、ちょうど今月、大手オンライン証券会社のETradeも参入を発表しました*10

A.T. Kearneyが2015年6月に発表したレポート*11によると、2015年は米国におけるロボ・アドバイザーによる資産運用額は全体の0.5%にすぎないが、2020年には全体の5.6%になり、また2020年までに、ロボ・アドバイザーを使った資産は2.2兆ドルに達するだろうと予測しています。

一方で、その勢いが弱まってきているという見方もあります*12

実際に、増加する顧客獲得コストと顧客ごとの平均収益の減少の組み合わせは、直販のロボ・アドバイザームーブメントの終焉の前兆かもしれない。彼らは顧客の生涯価値が累積的に一人の顧客にかかるコストよりも少なくなるという持続することが困難となることを示している変換点に近づいているのだ。(顧客一人当たりの平均年間総収益はたったの50ドルなのだ!)*13

ロボ・アドバイザーも間違いなく一つのFintechのトレンドなのですが、それとは真逆の自分で投資を組み立てるという動きもテクノロジーの発展に伴い活発になっているというのはとてもおもしろい現象だと思います。

まとめ

今回は株式投資も自分らしく行うという考え方のDIYトレーディングを取り上げました。様々なサービスの登場により、やる気さえあれば、DIYトレーディングをするにはどんどんよい環境になっていくと考えられます。

もちろん真逆の考え方の一つである、”設定して忘れる”ものと表現されるロボ・アドバイザーを使い、低コストで気軽に資産運用をしたいと考える人もたくさんいるでしょうし、手数料が高くてもどうしても対面式のサービスが受けたいという人もいるでしょう。

一つ言えることは、選択肢が増えているということです。そして、人々の望むゴールもただお金を増やす、ということではなく、どのように増やし管理をしていきたいのか、様々な選択肢があるからこそ、そのニーズもより細分化され明確になっていくと考えられるのではないでしょうか。

ただ、Alpacaとしては、DIYトレーディングの方向にこそAIを活かすポイントがあるのではないかと感じています。それは、本エントリーでも述べたとおり、自分のことは自分が一番わかっていて、そのための投資を本来は各々の人がもっと気軽に設計できるべきだと考えているからです。そこによりAIを活用できるようなサービスを我々も開発していかなければ、と考えています。

*1:The 7 essential traits of DIY investors( http://www.cnbc.com/2015/01/15/the-7-essential-traits-of-diy-investors.html

*2:All of the online trading firms offer an array of charts, quotes, research and educational materials. Not to say that investing is easy and that these tools will make you a better decision maker, but some of you reading this will no doubt do a great job for yourselves. Some, dare I say most, will not. Only one way to tell, right? You are more than welcome to try, learn, and grow your net worth on your own.

*3:Millennials overtake Baby Boomers as America’s largest generation( http://www.pewresearch.org/fact-tank/2016/04/25/millennials-overtake-baby-boomers/

*4:More Young Investors Turn to Online Wealth Management Firms — Should You?( http://investorplace.com/2013/08/wealth-management-millennials-young-investors/#.V3RmVZPhCSM)

*5:Many aren’t hung up on traditional forms of retirement planning — like a 401k or IRA plan. Instead they’re moving to do-it-yourself brokerage accounts and online wealth management firms. InvestorPlace‘s resident millennial and young investor Alyssa Oursler, for example, signed up for a simple online brokerage account (on top of enrolling of taking the old-school path and enrolling in the company’s 401k program). Piece of cake. The brokerage account has a small minimum investment requirement, and no upfront fees. It’s very much do-it-yourself.

*6: ”ミレニアル世代にみる米国の社会思潮変化”( http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2015/pdf/160219b.pdf

*7:Manage My Own Investments? Are You Kidding?(http://www.investopedia.com/articles/stocks/08/invest-on-your-own.asp?o=40186&l=dir&qsrc=998&qo=investopediaSiteSearch&ap=investopedia.com

*8:Your largest advantage is that no one knows you better than you know yourself. This places you in a unique position to tailor your investment strategy more precisely. You also do not face many of the short-term pressures that the professionals face. Despite their supposed long-term focus, they are largely judged on recent performance and failure to perform well in the short-term can lead to job loss. You are in a position to take a longer-term perspective. There is also a herd mentality on Wall Street. Going against the prevailing stampede is very difficult, even when that stampede is going in the wrong direction, as with the tech bubble in the late '90s or with the subprime mortgage meltdown of 2007. You are not a member of the herd so you are in a better position to go against the flow.

*9:”労力をかけるほど仕事は楽しくなる!「イケア効果」をフル活用せよ(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31701

*10: ETrade Bucks Investing Trends With a Robo-Adviser Juiced by Humans(http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-06-07/etrade-bucks-investing-trends-with-a-robo-adviser-juiced-up-by-humans

*11:“Hype vs. Reality: The Coming Waves of “Robo” Adoption” ( https://www.atkearney.com/documents/10192/7132014/Hype+vs.+Reality_The+Coming+Waves+of+Robo+Adoption.pdf/9667a470-7ce9-4659-a104-375e4144421d)

*12:The B2C Robo-Advisor Movement Is Dying, But Its #FinTech Legacy Will Live On!(https://www.kitces.com/blog/robo-advisor-growth-rates-and-valuations-crashing-from-high-client-acquisition-costs/

*13:In fact, the combination of rising client acquisition costs and declining average revenue per client may be an outright death knell for the direct-to-consumer robo-advisor movement, as they approach the unsustainable crossover point where the lifetime value of a client, cumulatively, is less than the cost to acquire a single client (given that some have a mere average gross revenue per client of just $50/year!).