Alpaca技術ブログ

AIと超高速データストレージを駆使して新しいトレーディングを創る

投資も「自分らしく」、 話題のロボ・アドバイザーとは真逆を行く「DIYトレーディング」のすすめ

こんにちは。インターンの加藤です。 今回は、アメリカで浸透しつつあり、Alpacaも注目している”DIYトレーディング”という考え方をご紹介したいと思います。

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目次

  1. DIYという考え方
  2. DIYトレーディングとは
  3. 似て非なるもの!?ロボ・アドバイザー
  4. まとめ

DIYという考え方

”DIY”という言葉、みなさんも一度は耳にしたことがあると思います。”Do-It-Yourself” の略で、「自分でやろう」という意味です。プロに任せず、自分自身で何かを作ったり、修繕したりすることを指します。元々は、第二次世界大戦後のロンドン市街地復興の合言葉として使われていましたが、現在は主に家具やインテリアを自分好みにカスタマイズするという意味で使われています。

DIYトレーディングとは

そんなDIYという考え方が、株式投資の世界にも広がってきています。”DIY Investing/Trading”, ”Self-directed Investing/Trading”という言葉を度々英文記事で見かけます。

これは文字通り、DIY(Do-It-Yourself)で、ロボットや他人に任せ切るのではなく、自分の意思と判断に基づいて取引を行うという意味で、私たちアルパカではこれを日本語で「DIYトレーディング」と呼んでいます。

なぜ、今、DIYトレーディングなのか

ではどうして、DIYトレーディングという考え方が注目されるようになってきたのでしょうか。まず大きな要因の一つとして、テクノロジーの発展が挙げられます。

この記事ではDIYトレーディングに役立つツールが以前よりも充実していると言っています*1

全てのオンライン証券会社はチャートをずらっと並べ、相場、レポートや教材を提供している。投資は簡単だ、これらのツールであなたはもっと良い選択ができる、と一概には言えませんが、これを読んでいるあなたたちのうちの何人かはたぶん素晴らしい結果を得ることができるでしょう。そして、あえて言ってしまいますが、何人かは良い結果は得られないでしょう。あなた自身で、挑戦し、学び、自分の価値を伸ばしてください!*2

テクノロジーの発展によって便利なサービスが次々と登場し、やる気さえあれば、DIYトレーディングを始められる環境になってきているということですよね。Alpacaでヘッジファンドや投資銀行の人と話していても、昔と比べてシークレットソースのようなものはなくなりつつあり、個人投資家も十分な情報にアクセスできる環境が整いつつあるということをよく聞きます。

そして、このようなオンラインのツールに抵抗が少なく、小さい頃からインターネットに触れ合ってきたいわゆるデジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代は、実は今、アメリカで最大の人口層です。少子高齢化の進む日本と比べるとイメージしづらいかもしれませんが、アメリカでは団塊の世代よりもミレニアル世代の方が人口が多く、アメリカの総人口のおよそ4分の1を占めています*3

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現在最も人口が多く、上のグラフからもわかるように今後もその規模を維持することが予測できるのですから、昨今のトレーディング事情に大きな影響を与えていることも、多くの金融機関がこの世代にアプローチしていることも納得がいきます。

この記事によると、彼らはすでに退職後のプランについても、従来の方法にはこだわっていないと言います*4

多くのミレニアル世代は401KやIRAのような、従来の年金システムにはこだわっておらず、その代わりにDIYの証券口座やオンラインの資産運用会社に移行しつつある。 例えば、InvestorPlace(米国株のニュースサイト)をよく見ている、ミレニアル世代の若い投資家Alyssa Ourslerはシンプルなオンラインの証券口座に登録をした。とても簡単だ。その証券口座は小さな最小限の投資額しか求めていないし、アップ・フロント・フィーもない。それはとてもDIYだ。*5

また、以前Robinhoodの回でも触れましたが、ミレニアル世代はSNSで友達にシェアしたくなるような物語性を投資にも求める傾向があります。さらに、このレポート*6では、ミレニアル世代は投資の際に、社会や環境への影響を重視すると言っています。その流れの中で、社会的インパクト投資(Impact Investing)と呼ばれる新しい投資形態が拡がりつつある、としています。インパクト投資とは、社会的課題の解決・改善と投資収益を同時に追求するというものです。

これは私の考えですが、アメリカではFacebookのようなまず若者に受け入れられた企業が、そのまま大きくなっていったストーリーがたくさんあります。このようなストーリーが身近にたくさんある環境では、自分にとっての物語性を感じる会社に長い目で投資してみたいと思うのは、日本よりも自然な感情なのではないかと感じています。

このような流れからも、投資によって単にお金を増やそうというのではなく、お金をどう増やし、管理していくのかという”哲学”が今まで以上に重要になってきていることがわかります。そしてDIYトレーディングでは、そのような自身の”お金の哲学”を表現することができるのです。

DIYトレーディングの魅力

テクノロジーの発展によって、DIYトレーディングをする環境は以前と比べ格段に整ってきていると言えますが、ではその魅力は何なのでしょうか。この記事では、”自分のことは自分が一番よくわかっていることだ”と言っています*7

あなたが最も有利な点は、あなたが一番あなた自身のことをよくわかっているということです。ということは、あなたはより正確にあなたの投資戦略を立てられるのです。あなたはまた、プロのアドバイザーが直面する短期的なプレッシャーに直面することはありません。彼らは長期的な視点で捉えているにも関わらず、職を失うかもしれないという可能性から短期的に成果を上げるために、最近の実績や失敗を元に判断することが多くなってしまいます。あなたは、そんなことを気にせずに、長期的な見通しを立てることができます。また、ウォールストリートには集団心理が存在します。90年代後半のテックバブルの時や2007年のサブプライムローン危機の時のように、それが悪い方向に向かっている時でさえ、人々がどっと押し寄せている時に、その流れに逆らうということはとても難しいです。あなたは集団の一人ではなく、その流れに反してよりいいポジションを取ることができるのです。*8

また、DIYに関しては、「人は自分で手間をかけることがクオリティーの向上に繋がると信じるものだ」という興味深い現象があります。ハーバード大学の経済学者マイケル・ノートン氏が提唱し、大手家具メーカーのイケアにちなみ、「イケア効果」と呼ばれています。この実験では、プロが組み立てた家具と、自分で組み立てた家具では、自分で組み立てた家具の方に高値をつけたという結果が出たのです*9

これは家具の組み立てに限らず、DIYトレーディングにも当てはまることでしょう。ファイナンシャルプランナーやロボ・アドバイザーによって与えられたポートフォリオではなく、自分で勉強をして努力をして作り上げていくポートフォリオに愛着を感じる、ということです。

さらに、いくら手数料が安くなってきているとは言え、ファイナンシャルプランナーを雇ったり、ロボ・アドバイザーを使うにはお金がかかります。結局、DIYトレーディングが一番コストがかかりません。

以前このブログで取り上げたRobinhoodは”手数料が無料”という画期的なトレーディングアプリで、若い世代を中心に普及しています。RobinhoodはまさにDIYトレーディングのためのアプリといえ、今後、このようなコストの面でもDIYトレーディングをより快適にすることができるサービスが生まれてくると考えられます。

似て非なるもの!?ロボ・アドバイザー

以前Robinhoodの回でも触れましたが、ロボ・アドバイザーというオンラインの資産運用サービスがこの頃アメリカでは普及しつつあります。一定のアルゴリズムに基づいて運用やリバランスを行うというもので、日本でもTheoなどのサービスが開始されていますね。

従来の対面型のファインシャルプランナーによるサービスと比較され、DIYトレーディングに含まれるものとして取り上げられることもあるのですが、”投資の判断を任せる存在”と捉えると、ロボ・アドバイザーはDIYとは真逆の考え方であることがわかります。

勢いはあるのかないのか

ここ数年、多くの企業がロボ・アドバイザーに進出しています。大手オンライン証券会社のCharles Schwab Corpやスタートアップの Betterment、Wealthfrontに加え、ちょうど今月、大手オンライン証券会社のETradeも参入を発表しました*10

A.T. Kearneyが2015年6月に発表したレポート*11によると、2015年は米国におけるロボ・アドバイザーによる資産運用額は全体の0.5%にすぎないが、2020年には全体の5.6%になり、また2020年までに、ロボ・アドバイザーを使った資産は2.2兆ドルに達するだろうと予測しています。

一方で、その勢いが弱まってきているという見方もあります*12

実際に、増加する顧客獲得コストと顧客ごとの平均収益の減少の組み合わせは、直販のロボ・アドバイザームーブメントの終焉の前兆かもしれない。彼らは顧客の生涯価値が累積的に一人の顧客にかかるコストよりも少なくなるという持続することが困難となることを示している変換点に近づいているのだ。(顧客一人当たりの平均年間総収益はたったの50ドルなのだ!)*13

ロボ・アドバイザーも間違いなく一つのFintechのトレンドなのですが、それとは真逆の自分で投資を組み立てるという動きもテクノロジーの発展に伴い活発になっているというのはとてもおもしろい現象だと思います。

まとめ

今回は株式投資も自分らしく行うという考え方のDIYトレーディングを取り上げました。様々なサービスの登場により、やる気さえあれば、DIYトレーディングをするにはどんどんよい環境になっていくと考えられます。

もちろん真逆の考え方の一つである、”設定して忘れる”ものと表現されるロボ・アドバイザーを使い、低コストで気軽に資産運用をしたいと考える人もたくさんいるでしょうし、手数料が高くてもどうしても対面式のサービスが受けたいという人もいるでしょう。

一つ言えることは、選択肢が増えているということです。そして、人々の望むゴールもただお金を増やす、ということではなく、どのように増やし管理をしていきたいのか、様々な選択肢があるからこそ、そのニーズもより細分化され明確になっていくと考えられるのではないでしょうか。

ただ、Alpacaとしては、DIYトレーディングの方向にこそAIを活かすポイントがあるのではないかと感じています。それは、本エントリーでも述べたとおり、自分のことは自分が一番わかっていて、そのための投資を本来は各々の人がもっと気軽に設計できるべきだと考えているからです。そこによりAIを活用できるようなサービスを我々も開発していかなければ、と考えています。

*1:The 7 essential traits of DIY investors( http://www.cnbc.com/2015/01/15/the-7-essential-traits-of-diy-investors.html

*2:All of the online trading firms offer an array of charts, quotes, research and educational materials. Not to say that investing is easy and that these tools will make you a better decision maker, but some of you reading this will no doubt do a great job for yourselves. Some, dare I say most, will not. Only one way to tell, right? You are more than welcome to try, learn, and grow your net worth on your own.

*3:Millennials overtake Baby Boomers as America’s largest generation( http://www.pewresearch.org/fact-tank/2016/04/25/millennials-overtake-baby-boomers/

*4:More Young Investors Turn to Online Wealth Management Firms — Should You?( http://investorplace.com/2013/08/wealth-management-millennials-young-investors/#.V3RmVZPhCSM)

*5:Many aren’t hung up on traditional forms of retirement planning — like a 401k or IRA plan. Instead they’re moving to do-it-yourself brokerage accounts and online wealth management firms. InvestorPlace‘s resident millennial and young investor Alyssa Oursler, for example, signed up for a simple online brokerage account (on top of enrolling of taking the old-school path and enrolling in the company’s 401k program). Piece of cake. The brokerage account has a small minimum investment requirement, and no upfront fees. It’s very much do-it-yourself.

*6: ”ミレニアル世代にみる米国の社会思潮変化”( http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2015/pdf/160219b.pdf

*7:Manage My Own Investments? Are You Kidding?(http://www.investopedia.com/articles/stocks/08/invest-on-your-own.asp?o=40186&l=dir&qsrc=998&qo=investopediaSiteSearch&ap=investopedia.com

*8:Your largest advantage is that no one knows you better than you know yourself. This places you in a unique position to tailor your investment strategy more precisely. You also do not face many of the short-term pressures that the professionals face. Despite their supposed long-term focus, they are largely judged on recent performance and failure to perform well in the short-term can lead to job loss. You are in a position to take a longer-term perspective. There is also a herd mentality on Wall Street. Going against the prevailing stampede is very difficult, even when that stampede is going in the wrong direction, as with the tech bubble in the late '90s or with the subprime mortgage meltdown of 2007. You are not a member of the herd so you are in a better position to go against the flow.

*9:”労力をかけるほど仕事は楽しくなる!「イケア効果」をフル活用せよ(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31701

*10: ETrade Bucks Investing Trends With a Robo-Adviser Juiced by Humans(http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-06-07/etrade-bucks-investing-trends-with-a-robo-adviser-juiced-up-by-humans

*11:“Hype vs. Reality: The Coming Waves of “Robo” Adoption” ( https://www.atkearney.com/documents/10192/7132014/Hype+vs.+Reality_The+Coming+Waves+of+Robo+Adoption.pdf/9667a470-7ce9-4659-a104-375e4144421d)

*12:The B2C Robo-Advisor Movement Is Dying, But Its #FinTech Legacy Will Live On!(https://www.kitces.com/blog/robo-advisor-growth-rates-and-valuations-crashing-from-high-client-acquisition-costs/

*13:In fact, the combination of rising client acquisition costs and declining average revenue per client may be an outright death knell for the direct-to-consumer robo-advisor movement, as they approach the unsustainable crossover point where the lifetime value of a client, cumulatively, is less than the cost to acquire a single client (given that some have a mere average gross revenue per client of just $50/year!).