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ミレニアル世代から支持されるアメリカで最も勢いのあるトレーディングアプリRobinhoodとは何なのか

Alpacaでインターン中の加藤です。Alpacaはアメリカを拠点にしている関係で、なかなか日本では手に入らない情報が入ってきます。定期的にAlpacaブログで、そのような情報をまとめて紹介していきます。

まず最初は、アメリカで今一番勢いのあるトレーディング用モバイルアプリRobinhood(ロビンフッド)を取り上げます。本エントリーの目次は以下のとおりです。

  1. アメリカと日本の根本的なトレーディングに対する考え方の違い
  2. 今、注目を集めているRobinhood(ロビンフッド)
  3. ミレニアル世代とトレーディング
  4. まとめ

アメリカと日本の根本的なトレーディングに対する考え方の違い

トレーディングに関する考え方の違い

アメリカ人は投資が好き、日本人は現金が好き、という話はよく耳にしますよね。実際に、日銀が発表している家計の金融資産構成*1を比較すると、現金・預金の割合は、日本では51.8%、アメリカでは13.7%、一方、株式などへの投資は日本では16.6%なのに対し、アメリカでは51.8%を占めています。つまり、単純に考えて、日本人が預金を持っている感覚で、アメリカでは株を持っているといえるでしょう。

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アメリカでは給料の一部を株式としてもらうことが当たり前に行われています。国民の多くが資産として株を所有しているので、金融政策も株価を安定させることを重要視しています。 自分で株を買うということをしなくてもすでに株を所有しているのですから、アメリカ人のトレーディングに対する関心は、日本人と比べて高いと言えます。アメリカでは金融業界の仕事をしていない人でも、自分の資産に影響のある株価の動向を常にチェックして、日常的に株の話をしています。

また、下のグラフはS&P500と日経平均株価の上昇率をAlpacaが実データで計算*2したものです。日経平均株価と比べて米株価は上昇していることがわかります。このような背景からも、アメリカ人が日本人に比べて株の保有率が高く、トレーディングにより興味を持っていることは当然と言えるでしょう。

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ロボ・アドバイザーとトレーディングの考え方の違い

さて、少し余談にはなりますが、投資について考えるため、日本でも最近流行ってきたロボ・アドバイザーがトレーディングとどのような関係にあるかを考えてみます。

ロボ・アドバイザーとは日本でもTheoなどのサービスが開始されていますが、オンラインの資金運用サービスで、コンピューターのアルゴリズムに基づきポートフォリオを管理できるというものです。

従来のファイナンシャルプランナーによる対面型のサービスと比べ、手数料が安いというのが一番の特徴です。受けられるサービスが限られるという点はあるものの、若い投資家を中心にアメリカで普及しています。

ただし、ロボ・アドバイザーはあくまで自分の資産を主に米国ETFを用いて低い手数料で国際分散投資を行えることが目的であり、積極的にトレーディングを行うものとは真逆の考え方です。

つまり、株として資産を持っているが、そのリスクマネージメントとしてロボ・アドバイザーは存在しており、株を資産として持っているアメリカではロボ・アドバイザーの立ち位置もだいぶ変わっていると考えることができます。日本のロボ・アドバイザーは主に預金からのインフレに対するリスクヘッジの側面があると思いますが、アメリカの場合はその役割もだいぶ異なるということが言えます。

今、注目を集めているRobinhood(ロビンフッド)

Robinhood(ロビンフッド)とは

さて、今回取り上げるのは、今アメリカで最も勢いのあるトレーディングアプリ、ロビンフッド(Robinhood)です。なんと’手数料ゼロ’でトレーディングができるというサービスで、スタンフォード大学でルームメイトだったVladimir Tenev氏とBaiju Bhatt氏がリリースし、若い世代を中心に瞬く間に人気アプリとなりました。

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2015年5月のRobinhood社の発表*3によると、合計6600万ドルの資金調達、5億ドルの取引、1200万ドルの取引手数料の削減を達成したということで、これらの数字を見るだけでも、Robinhoodの勢いを窺い知ることができます。また、この6600万ドルの資金調達には、ラッパーのスヌープ・ドッグ、俳優のジャレット・レトが参加したことでも話題になりました。

現在はアメリカ株とETFのみが購入できますが、ゆくゆくは世界中に展開していくことを目指しており、現在、オーストラリア版と中国版を展開中です。

なぜRobinhoodなのか

Robinhoodの一番の特徴はなんといっても’手数料がゼロ’ということです。今までは、株取引の手数料として、7ドルから10ドルを払うのが当たり前であったため、それが無料でできるというRobinhoodは大きな衝撃を与えました。

Robinhood社は創業の歴史を語る上で、「毎日投資家たちはトレードする度に10ドルを払わなくてはならなかった。Baiju氏とVlad氏は、すべての人に利益がもたらされる時が来たと実感した」と言っています*4

さらに、口座を開設するのに必要な預金の最低額をなくし、少額でのトレーディングを可能にすることで、預金の少ない人、トレーディング経験のない人も簡単に始められるようにしました。実際に、Robinhoodのユーザーのうち、25%が初めてトレーディングを行った人だとRobinhood社が発表*5しています。

’Robinhood’という社名からも、貧しい人たちにも富が分配され、チャンスが与えられるべきだと考えていることがわかります。

もう一つの大きな特徴は、使い方がとてもシンプルだという点です。共同創業者の一人であるTenev氏は「Instagramの投稿と同じくらいシンプルにしたかった」と発言しています*6

今まではパソコンを使ってトレーディングをするのが当たり前でしたが、Robinhoodはスマホ専用(iPhone,iPad,Android)のサービスです。これはパソコンを持たず、スマホを日常的に使っている若者に支持される大きな理由となりました。スタイリッシュなデザインも評価され、Apple Design Award 2015, Google Play’s Best Apps of 2015, Google Play Award 2016を受賞しています。

Robinhoodとミレニアル世代

このRobinhood、ミレニアル世代と呼ばれる1980年から2000年頃に生まれた、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる世代をターゲットにしています。彼らにとってはFacebookやTwitterなど、無料のサービスは当たり前。そのため、トレーディングの手数料がゼロ、というRobinhoodは受け入れられやすかったと考えられます。実際に、Robinhoodユーザーの平均年齢は26歳*7だと言われています。

また、彼らは現金の次に、ETFを一般的な資産として持っており、ロボ・アドバイザーも彼らを中心に普及しています。ただ、このようなコンピューターによって自動的に作られたポートフォリオも結局は従来の金融商品の新バージョンにすぎず、ミレニアル世代にとっては’ありきたりのもの’と感じるのかもしれないとこの記事*8は言っています。

さらに「それでは面白くない。そこにはS&P 500 indexに対する感情に訴える反応はなく、物語もない。あなたは友達に話すことができない」とhead of product development at Ark InvestのStaudt氏は語っています*9

もう一人の共同創業者のであるBhatt氏も、「『何にでもフィットしてしまうものなんて持ちたくない』、という思いのは自分が自分であるために、それぞれの人がなにかしらもっているものだと思う」と発言しています*10

ミレニアル世代にとって身近で当たり前である’無料’のサービス、シンプルでスタイリッシュなデザイン、友達にシェアしたくなる自分だけの’物語’を作ることができる。Robinhoodがミレニアル世代に支持されたのは必然だったのかもしれません。

ミレニアル世代とトレーディング

そんなミレニアル世代とトレーディングについて、この記事*11ではこのように書かれています。

不景気の影響から、ミレニアル世代が投資に積極的に参加することには、慎重になってしまっている可能性がある一方、ソーシャルメディアを利用することで、投資について学ぶことはより簡単・快適になっている。BlackRock の調査によると、45%のミレニアル世代は5年前よりも株式市場に興味を持ちはじめている*12

さらに、

ミレニアル世代は、前の世代よりも投資に対して楽観的である傾向がある。団塊世代と比べて、彼らは楽観的であるだけではなく、投資に対して勉強熱心である。それは彼らがティーンエイジャーの頃、両親が経済危機で貯金を失った姿を見ていることを考えると驚くことではない*13

よって、ミレニアル世代がこれまでの世代と異なる投資傾向を持つだろうということはほぼ間違いありませんが、決してそれは投資をしないということではなく、なにかしらこれまでの世代とは異なるものがトリガーになる、という傾向がわかりつつあると言えます。

まとめ

Robinhoodがアメリカの特にミレニアル世代に受け入れられた現象の説明をしました。

Robinhoodの他にも、ミレニアル世代に支持されるフィンテック系アプリがあります。その中の一つがAcorns(エイコン)。1ドル未満の’お釣り’を自動的に投資に回してくれるというサービスです。少額での投資を可能にすることで、Robinhoodと同様に、ミレニアル世代を中心とした今まで投資をすることができなかった人たちが投資を始めるのを助けています。これまで3200万ドル*14にも上る資金調達に成功しており、急成長中です。

このように、現在、多くの金融機関が将来の重要顧客であるミレニアル世代の囲い込みを考えています。上のAcornsなども踏まえると、なにかしらトレーディングをすること自体に物語性があることがミレニアル世代にトレーディングが受け入れられる鍵になっているように見受けられます。Instagramが自分自身を発信するツールとして受け入れられたように、これまでの世代とは異なるポイントがミレニアル世代には重要な投資行動の評価軸となっているようです。

*1:日本銀行調査統計局『資金循環の日米欧比較』2016年4月5日(https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf

*2:2000年1月3日のそれぞれの株価を1として変化率を表したもの。 YAHOO! FINANCE(https://finance.yahoo.com/quote/%5EN225/history?ltr=1

*3:"Onward"(http://blog.robinhood.com/news/2015/5/4/onward)

*4:everyday investors were taxed up to $10 per trade. Baiju and Vlad realized it was time to bring this advantage to everyone. (https://support.robinhood.com/hc/en-us/articles/202844869)

*5:"Onward"(http://blog.robinhood.com/news/2015/5/4/onward)

*6:“We wanted to make it as simple as posting a picture on Instagram,” (http://venturebeat.com/2014/09/23/robinhood-snags-13m-to-make-stock-trading-hip/)

*7:"Robinhood's stock trading app for millennials with zero trading fees is finally here"(http://venturebeat.com/2014/12/11/robinhoods-stock-trading-app-for-millennials-with-zero-trading-fees-is-finally-here/)

*8:"Value Investing Redefined Surprising Ways Millennials Are Changing Investing"(http://www.ibtimes.com/value-investing-redefined-surprising-ways-millennials-are-changing-investing-2255465)

*9:“It’s not as exciting. There’s no emotional response to the S&P 500 index. There’s no story there, you can’t talk about it with your friends,”

*10:“I think it’s a part of each person’s desire for individuality not to have a one size fits all,”

*11:"How Millennials Use Tech Social Media Invest"(http://www.investopedia.com/articles/investing/022715/how-millennials-use-tech-social-media-invest.asp)

*12:While Millennials can sometimes be wary about jumping into investment coming off the heels of the recession, the availability of social media tools is making it easier and more comfortable for this age group to learn about investing. A survey from BlackRock frond that 45 percent of Millennials are more interested in investing in the stock market today than they were just five years ago.

*13:As is to be expected of an adventure-seeking, forward-moving generation, Millennials tend to be more bullish about investments than previous generations. BlackRock also reports that Millennials are not only more confident about the future but also spend more time reviewing their investments than Baby Boomers. The report found that while Baby Boomers spend only an average of two hours reviewing their investments each month, Millennials dedicate up to seven hours per month studying their investments. Given the fact that Millennials were coming of age when their parents lost their savings as a result of the financial crisis, this is hardly surprising.

*14:"Acorns is an 8-month-old app that makes investing spare change dead simple, and it just raised $23 million"(http://www.businessinsider.com/easy-investing-app-acorns-raises-23-million-series-c-round-2015-4)